診察室で「言葉が出ない」あの辛さ
前回、私が続けている「行動記録」について書きました。その記事を読んでくださった方から「なぜ医師にその記録を見せているの?」という質問をいただいたことがきっかけで、今日のお話を書こうと思います。
診察室で先生に「最近どうですか?」と聞かれた時、頭が真っ白になってしまう経験はありませんか?言いたいことがたくさんあったはずなのに、いざその瞬間になると言葉が出てこない。「えーと…」「なんか…」と言葉を探しているうちに、結局「まあまあです」なんて曖昧な答えで終わってしまう。
特に、悪夢で目覚めた後の混乱している時や、日中の反芻思考で感情がぐちゃぐちゃになっている時は、「今の辛さ」をどう伝えたらいいのか分からなくなってしまいます。限られた診察時間の中で、本当に困っていることを伝えきれずに帰ってきて、後から「あ、あれも言えばよかった」と後悔することの繰り返し。
そんな私が試行錯誤の末にたどり着いたのが、「音声メモの活用」と「行動記録の診察用整理」でした。完璧な方法ではありませんが、私にとっては医師に「本当に伝えたいこと」を話すための大切なツールになっています。
行動記録を「診察用」にまとめるワザ
前回お話しした「ざっくり行動記録」は、あくまで日常用のものでした。でも、それをそのまま診察に持っていくだけでも、先生にはかなり多くのことが伝わるということに気づいたのです。
記録シートをそのまま持っていく
特別に診察用の資料を作る必要はありません。普段書いている記録シートをそのまま持参するだけで十分です。私が記録している内容を改めて整理すると、こんな感じです。
睡眠について
- 睡眠の質や悪夢の有無
- 日中の眠気や疲労度
- 起床後の気分や体調
日中の活動について
- その日の活動量(散歩、家事、仕事など)
- 疲労度や気分の変化
- 食事や入浴などの生活機能
感情の動きについて
- 反芻思考の有無とそのきっかけ
- どんな内容を考え続けてしまったか
- その時の対処法と効果
- 感情の強度とその後の変化
具体的な出来事
- 悪夢の内容とその影響度
- 人間関係で起きたこと
- 気分が上がった、または下がったきっかけ
ポジティブとネガティブの両方を見える化
記録をつけていると、ネガティブな内容ばかりに目が行きがちですが、実は小さなポジティブな変化も隠れています。例えば「瞑想を3日続けられた」「夢を覚えていない日があった」「いつもより30分長く眠れた」といったこと。
一方で「友人の何気ない一言で一日中落ち込んだ」「また同じことを考え続けてしまった」といったネガティブな内容も、医師にとっては重要な情報です。
両方をバランスよく記録しておくことで、先生は私の状況を立体的に把握しやすくなるのだと感じています。
完璧じゃなくても大丈夫
大切なのは、記録シートが完璧に埋まっていることではありません。空白があっても、途中で記録が途切れている日があっても、それ自体が今の私の状態を表していると考えています。「毎日完璧に記録できないほど調子が悪い」ということも、立派な情報なのです。
スマホ音声メモで「心の声」を記録する
行動記録と併せて活用しているのが、スマホの音声メモ機能です。これが意外にも、診察での「伝える力」を大きく変えてくれました。
いつ、どんな時に使う?
音声メモを使うタイミングに決まりはありません。
- 辛い感情が湧いてきた瞬間
- 診察の前日や当日の朝
- ふと「これは先生に伝えたい」と思った時
- 悪夢から目覚めて混乱している時
要するに、「今、この気持ちを記録しておきたい」と感じた時が、音声メモのタイミングです。
何を話せばいい?
音声メモの内容も、本当に自由です。頭に浮かんだことをそのまま声に出すだけ。
「今、すごく気持ちが重い」 「昨日見た夢がまだ頭に残っていて、体がだるい」 「友達の言葉がずっと頭の中でリピートしている」 「今日は珍しく朝から気分が軽い感じがする」 「薬を飲み忘れそうになって、焦った」
こんな風に、その瞬間の感情や出来事をそのまま声にするだけです。
音声入力のコツ
音声メモを始めた頃は「ちゃんとした文章にしなきゃ」と思っていましたが、それは全くの間違いでした。
- 完璧な文章である必要はない
- 単語の羅列や短いフレーズでもOK
- 「えーと」「あー」などの言葉が入っても気にしない
- 誰かに聞かれることを前提にしなくていい
- あくまで自分のための記録
一番大切なのは、その瞬間の「生の感情」を残すことです。
診察前の準備として活用
診察の前日や当日の朝に、過去に録音した音声メモを聞き返すことがあります。「そうそう、これも言いたかった」「こんなこともあったな」と、忘れていた出来事や感情を思い出すことができます。
音声メモを聞きながら、簡単なメモを書くこともあります。先生に伝えたいポイントを箇条書きにしておくと、診察で話し忘れることが減りました。
私の「伝える」が変わった小さな変化
行動記録と音声メモを診察で活用するようになってから、いくつかの変化がありました。
「先生に伝え忘れ」が激減
以前は診察が終わった後で「あ、あれも言えばよかった」と後悔することが多かったのですが、記録があることで伝え忘れが大幅に減りました。「記録にこう書いてあるんですが…」と具体的に話せるようになったのです。
漠然とした辛さから具体的な状況へ
「なんとなく調子が悪い」ではなく、「○日の夜に見た悪夢の影響で、翌日一日中気分が重かった」「友人との会話をきっかけに反芻思考が始まり、3日間続いた」といった具体的な状況を伝えられるようになりました。
医師とのコミュニケーションが向上
先生も私の状況を把握しやすくなったようで、より具体的なアドバイスをもらえるようになりました。薬の調整についても、記録をもとに相談できるので、以前より的確な判断につながっている気がします。
自分を少しだけ認められるように
「頑張って先生に状況を伝えようとしている自分」を、少しだけ認められるようになりました。完璧に伝えられなくても、「今日もちゃんと記録を持ってきた私、えらい」と思えるのです。
先生に「これ見てください」と渡す勇気
最初は記録を見せることに抵抗がありました。「こんなの見せて、変に思われないかな」「面倒くさがられるかな」と心配でした。でも、思い切って「これ、見ていただけますか」と渡してみると、先生は思った以上に丁寧に目を通してくださいました。
自分のために始めたことが、結果的に医師とのコミュニケーションを豊かにしてくれたのです。
まとめ
完璧に自分の気持ちを伝えることは、今でも難しいと感じています。言葉にするのが苦手で、感情をうまく整理できない日もまだまだあります。
でも、行動記録と音声メモは、その「難しい」を少しだけ助けてくれるツールになりました。悪夢や不安で心が荒れている時でも、「今の私」を客観的に見つめ、医師に届けるための大切な「橋渡し役」として機能してくれています。
もし診察でうまく話せない、自分の状態を伝えきれないと感じている方がいらしたら、ぜひ「音声メモ」と「行動記録」を試してみてください。完璧である必要はありません。まずは「やってみる」ことから始めてみませんか。
小さな一歩かもしれませんが、その一歩が、きっとあなたと医師の間の「伝える・伝わる」を少しだけ豊かにしてくれるはずです。
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