はじめに
「休んでいるのに、なかなか気持ちが楽にならない」「特定の場面や人を思い出すと、体が固まってしまう」——そんな経験はありませんか?
うつ病や適応障害と診断されて治療を受けているのに、症状がなかなか改善しない場合、その背景に「トラウマ」が関係している可能性があるかもしれません。
この記事では、トラウマがうつ症状に与える影響と、回復に向けてできることを、やさしくお伝えします。
こんな症状はありませんか?セルフチェック
以下の項目で、最近の自分に当てはまるものがあるか、確認してみてください。
体と心のサイン
- 特定の場所や人を思い出すと、動悸や息苦しさを感じる
- 体がいつも緊張していて、リラックスできない
- つらかった場面が、急に鮮明に思い出される(フラッシュバック)
- 同じような悪夢を繰り返し見る
- 検査しても原因がわからない体調不良が続いている
- 「自分はダメだ」という強い思い込みが消えない
行動や考え方のサイン
- 特定の話題や場所を、無意識に避けている
- 以前は楽しめたことに、まったく興味が持てない
- 人を信じることができず、孤独を感じる
- 集中力が落ちて、簡単なこともミスしてしまう
- 将来に希望が持てない
- ちょっとした音や気配に、びっくりしてしまう
いくつか当てはまる場合は、トラウマが影響している可能性があります。一人で判断せず、医療機関や専門家に相談してみることをおすすめします。
うつ症状の背景に、トラウマがあるかもしれない理由
トラウマとは?
トラウマとは、心に深い傷を残すようなつらい体験のことです。職場でのパワハラやいじめ、過度なプレッシャーなどが、トラウマになることがあります。
一般的なうつ病との違い
トラウマが関係しているうつ症状には、いくつかの特徴があります。
特徴1:きっかけが明確 一般的なうつ病は原因が特定しにくいことがありますが、トラウマが関係している場合は「あの出来事」というきっかけがはっきりしていることが多いです。
特徴2:特有の症状がある 気分の落ち込みだけでなく、フラッシュバックや過度な緊張状態など、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に似た症状が見られることがあります。
特徴3:安心感が失われている 本来安全であるはずの場所で傷ついた経験は、「どこも安全ではない」「誰も信じられない」という深い不安を生むことがあります。
「適応障害」と診断されたけれど…
最初に「適応障害」と診断されるケースは多いです。適応障害は、ストレスの原因から離れれば改善するとされていますが、もし休んでも症状が長く続いたり、フラッシュバックなどがある場合は、診断が変わる可能性も考えられます。
主治医に、具体的な症状(悪夢やフラッシュバックなど)を詳しく伝えてみることが大切です。
回復に向けて、できること
トラウマからの回復には時間がかかります。焦らず、段階を踏んで進んでいくことが大切です。
ステップ1:まずは安全な環境を作る
何よりも大切なのは、つらい状況から離れて、安心して休める環境を作ることです。
- 休職する:医師の診断書をもらい、まずはしっかり休みましょう
- 刺激を減らす:職場との連絡を最小限にする、仕事のメールは見ないなど
- 必要に応じて薬の力を借りる:不眠や不安を和らげるため、医師と相談しながら薬を使うことも
- 生活リズムを整える:無理のない範囲で、睡眠や食事の時間を一定に保つ
「何もしないで休む」ことが、この段階での最も大切な治療です。
ステップ2:専門家のサポートを受ける
心身が少し落ち着いてきたら、臨床心理士や公認心理師などの専門家と一緒に、心のケアを進めていきます。
- 心理教育:自分に何が起きているのかを理解する
- 感情のコントロール方法を学ぶ:不安や怒りと上手に付き合う方法を身につける
- 専門的な心理療法:EMDR、持続エクスポージャー療法、認知処理療法など、トラウマに特化した治療法があります
これらの治療は専門性が高いので、必ず訓練を受けた専門家のもとで行うことが大切です。
ステップ3:少しずつ社会とつながり直す
症状が和らいできたら、自分のペースで社会とのつながりを取り戻していきます。
- 小さな成功を認める:「今日は散歩できた」など、どんな小さなことでも自分を褒めてあげましょう
- リワーク支援を利用する:復職支援プログラムで、生活リズムを整えたり、同じ経験をした人と交流したり
- 働き方を見直す:元の職場に戻ることだけが選択肢ではありません。自分に合った働き方を考えてみましょう
回復にかかる時間は人それぞれ
数ヶ月で良くなる人もいれば、数年かかる人もいます。「早く治さなければ」と焦る気持ちは、かえって症状を悪化させることも。昨日より少しでも楽になっていれば、それは大きな前進です。
知っておきたい支援制度
治療に専念するには、経済的な安定も大切です。利用できる制度を知っておきましょう。
傷病手当金
健康保険に加入していれば、休職中でも給与の約3分の2が最長1年6ヶ月受け取れる可能性があります。会社の人事部や健康保険組合に相談してみてください。
労災認定
業務が原因で精神的な病気になった場合、労災として認定されることがあります。認定されると、治療費が無料になったり、手厚い補償が受けられます。手続きは複雑なので、労働基準監督署や弁護士に相談するとよいでしょう。
相談できる窓口
- 総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署に設置)
- みんなの人権110番(法務省:0570-003-110)
- 労働組合(ユニオン)
- 弁護士(法テラスなどで相談可能)
一人で抱え込まず、信頼できる窓口に相談してみてください。
日々のセルフケアと周りのサポート
自分でできること
- 安心できる場所を作る:自宅に「ここなら安全」と思える空間を作りましょう
- 五感を使って「今」に戻る:不安が強いときは、冷たい水で顔を洗う、好きな音楽を聴くなど、五感を刺激してみて
- 小さな「できた」を大切に:できなかったことより、できたことに目を向けましょう
- 自分を責めない:「自分のせい」という考えは、トラウマの症状の一部です
周りの人ができること
してあげたいこと
- 話をじっくり聴く(アドバイスより共感を)
- 「あなたの味方だよ」と伝える
- 本人のペースを尊重する
- 具体的な手伝い(病院の予約、手続きなど)を申し出る
避けたいこと
- 「頑張れ」「気にしすぎ」などの安易な励まし
- 「あなたにも原因があったのでは?」という責める言葉
- 無理に気分転換に誘うこと
まとめ
うつ症状がなかなか良くならない背景には、トラウマが関係している可能性があります。でも、適切な治療とサポートを受けながら、自分のペースで進んでいけば、必ず回復への道は開けます。
まずは信頼できる医療機関や専門家に相談することから始めてみてください。あなたは一人ではありません。
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