適応障害・うつ病

カウンセリングで感情が出せなかった話

適応障害・うつ病
この記事は約6分で読めます。
記事内に広告が含まれています。

はじめに

うつ病やトラウマを抱えながらカウンセリングを受けている方の中には、「うまく感情が出せない」「カウンセリングでむしろ落ち込んだ」という経験をしている人もいると思います。

今日は、私自身が体験した「IRT(イメージリハーサル療法)」のカウンセリングでの出来事を、一つの事例として率直に書いてみます。

誰かを批判したいわけではなく、「こういうことも起こる」「それでも自分を責めなくていい」ということを伝えたいだけです。

IRT療法(イメージ・リハーサル療法)とは?

悪夢が何度も繰り返し出てきて、眠れない。
そんな「反復性悪夢」に対して行われる心理療法が IRT療法 です。
薬を使わずに、夢のストーリーを自分で書き換えていくのが特徴です。


どうして悪夢が続くのか?

恐ろしい夢を見ると、脳はそれを「重要な情報」と判断し、
何度も再生しようとします。
そのため、悪夢がクセのように繰り返されてしまいます。


IRT療法のポイント

やることはシンプルです。

  1. 見た悪夢の内容を書き出す
  2. 自分が安心できる展開・結末に書き換える
  3. 日中、その新しいストーリーを繰り返し想像する

これを続けることで、脳が「安全な結末」を学習し、
悪夢が弱まり、やがて見なくなっていきます。


何に効果があるの?

  • PTSDに伴う悪夢
  • ストレスや不安で続く悪夢
  • 夢で目が覚めてしまう睡眠障害

短期間で効果が出やすく、副作用もほぼありません。


なぜ効くの?

脳の恐怖反応を司る部分(扁桃体)が過敏になっていると、
夢の中で恐怖が暴走します。
書き換えて想像し直すことで、前頭前野が「もう安全だよ」と
判断できるようになり、夢の感情自体が変わっていきます。

IRTのシートを渡した日のこと

ある日、私はカウンセリングの時間に、自分で書いたIRTの練習シートをカウンセラーに手渡しました。

そのシートには、「上の階がうるさくて、天井を叩いた夢」を「猫がたくさん落ちてきて、怖さがやわらぐストーリー」に書き換えたものなどが書かれていました。私としては、「どうしたら怖さが減るだろう?」と考え抜いたうえでの”精一杯の書き換え”でした。

しかし、カウンセラーから返ってきた言葉は、

内容に主体性がなく、どこか他人事のように見える

という指摘でした。

そのとき私は、「ああ、自分の書き方はダメだったのか」「ちゃんとできていないんだな」と、心のどこかで自分を責めてしまいました。

「感情を出していい」と言われても、出てこない

そのときカウンセラーからは、「怒りが湧いてきてもいいんですよ」「感情を出しても大丈夫ですよ」というような言葉もありました。

カウンセラーの意図としては、私の中の感情をもう少し動かしたい、他人事ではなく「自分事」として扱えるようにしたい──という狙いがあったのだと思います。

しかし、その場にいた私の内側には、怒りが湧かない。何を感じればいいのか、よくわからない。ただ、胸の奥が重くなり、涙が少しにじむ──という状態しかありませんでした。

あとから振り返れば、「自分はダメだ」と言われているような感覚があったのかもしれません。でも、その瞬間はうまく言葉にならず、自分で自分の感情がよくわからないままでした。

カウンセラーさんからしたら、自分が駄目だと思うのではなくて、カウンセラーさんの言葉に対して何かの反応を期待したのかもしれません。

私は「怒り」がほとんど出ないタイプ

ここで一つ、私の特徴を書いておきます。

私は、つらい出来事に対して、「怒り」よりも「悲しみ」や「自責」が先に出てしまう傾向があります。相手に対して怒るより、「自分が悪いのではないか」と考えてしまうのです。

過去のトラウマの影響もあり、怒りを表に出すことが危険だった時期が長く、「怒ってはいけない」「怒るともっとひどい目に遭う」と、どこかで学習してきたのだと思います。

そのため、「本当なら怒りが出る場面ですよ」と言われても、ピンとこない。怒るかわりに、静かに落ち込んでしまう、なんとか平穏に過ごす方法を無意識に考えるのです。

これは、おそらく私だけでなく、長くトラウマや虐待、パワハラなどを経験してきた人には共通する部分もあるかもしれません。

カウンセラーのアプローチと、私の反応のズレ

今回のカウンセリングを振り返ってみると、カウンセラーは「感情を動かすこと」を意図していて、特に「怒り」が出ることを想定していた可能性があります。

一方で、私の内側から出てきたのは「怒り」ではなく、「悲しみ」と「自責」でした。しかも、その感情さえうまく自覚できず、「わからない」という形でしか出てこなかった。こうした”ズレ”があったのだと思います。

ここで大事にしたいのは、カウンセラーが間違っていたわけでも、私が悪かったわけでもないという視点です。

カウンセリングにはさまざまなアプローチがあり、そこに「絶対的な正解・不正解」はありません。同じやり方でも、力になる人もいれば、今の自分には負担が大きすぎると感じる人もいる。それだけの話です。

私の心には、今は余力がなかった

今回のセッションのあと、私はかなり気持ちが落ち込みました。「ちゃんと感情が出せなかった自分はダメなのではないか」「主体性がないと言われたような気がしてしまう」──そういった自責の思考が、頭の中をぐるぐる回りました。

今振り返ると、カウンセリングの方法が間違っていた、というより、私の心のほうに、耐えられるだけの余力がなかったという理解のほうがしっくりきます。

刺激を与えるタイプのアプローチを受けるには、まだ回復途中で、悪夢や不眠、日中の不調でいっぱいいっぱいの状態だった。そのタイミングで、「感情をもっと動かそう」とする方向の関わりが入ったため、私の側がうまく受け止めきれず、落ち込みと自責に傾いてしまった──ということなのだと思います。

「うまく感情が出せなかった自分」を責めないことにした

今回の出来事を、行動記録には次のように短くまとめました。

カウンセリングでIRTシートを渡したが、内容に距離感があると指摘された。感情が出ず、悲しみと自責が強く残り、終了後に気持ちが落ち込んだ。負担が大きいため、次回は一度休むつもり。

これが、今回の私の「正直な反応」です。

そして今は、カウンセラーも私も”間違っていた”とは考えない。ただ、「今の自分には少し負荷が強すぎた」と理解する。うまく感情が出せなかった自分を、これ以上責めない。そう決めることにしました。

カウンセリングの方法にも、正解・不正解はありません。ただ、「今の自分の心が、どこまで耐えられるか」という限界は、確かにあります。その限界を超えてしまうと、落ち込みが強くなったり、自責が激しくなったり、回復どころか、逆につらさが増してしまうこともあります。

同じように悩んでいる方へ

もしこの記事を読んでいるあなたが、カウンセリングでうまく感情を出せなかった、「もっと怒っていい」「もっと悲しんでいい」と言われて戸惑った、セッションのあと、かえって落ち込んだり、自分を責めてしまった──そう感じたことがあるなら、まず伝えたいのは、

それはあなたがダメだからではない

ということです。

感情がうまく出ないのも、怒れないのも、悲しみや自責ばかりが先に出てしまうのも、あなたのこれまでの経験と、心の防衛反応の結果です。

それは、「弱さ」ではなく、「生き延びるために身についた仕組み」だと思います。

おわりに:感情の出方に正解はない

今回のIRTカウンセリングの体験を通して、私はあらためて、感情の出方に「正解」はないこと、カウンセリング内容も「合う・合わない」「その時の心の余力」に左右されることを実感しました。

そして何より、「自分を責めてしまったこと」が辛かったと言えます。

だから今は、一度IRTの練習はお休みする、カウンセリングも必要なら少し距離を置いて様子を見る。そんな選択を、自分に許そうと思っています。

同じように、「カウンセリングで思うように反応できなかった自分」を責めている方がいたら、どうか、少しだけ自分に優しくなってもいいのだと、自分に言ってあげてほしいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました