はじめに
うつ病になって6年が経ちます。CPTSD(複雑性PTSD)も抱えながら、ずっと在宅療養を続けています。
しかし、その6年間で一度も「休んだ気がした」日がありません。むしろ毎日、見えない何かに追いかけられているような焦りがあります。
「何かしなければ」「このままでいいのか」「もう6年も経っているのに」
そんな声が頭の中で24時間鳴り続けています。体は横になっているのに、脳だけが全力疾走しているような感覚です。
これは一体何なのでしょうか。自分がダメな人間だからなのか、それともうつ病患者に共通してみられる症状なのか。あまりに辛くなり、できる範囲で調べてみました。分かったのは、これは決して性格や努力不足の問題ではなく、病気としての症状である可能性が高いということでした。
同じような症状で苦しんでいる方の参考になればと思い、私の体験と調べた情報をまとめます。
私が毎日感じている「休んだ気がしない」という感覚
朝、目が覚めた瞬間から心臓がドキドキしています。怖い夢を見たわけでもないのに、理由のない焦りがあります。
ベッドから起き上がることすら億劫なのに、頭の中では「何かしなければ」という声が止みません。情報収集しなければ、返事をしなければ……。
横になってテレビを見ていても、本を読んでいても、心は少しも落ち着きません。「こんなことをしていていいのか」「時間を無駄にしている」「もう6年も休んでいるのに」という自責の念が渦巻きます。
夜になっても焦りは消えず、「今日も何もできなかった」という罪悪感がさらに重なり、心がいっそう重くなります。強い消耗感があるのに、どこにも向かえない状態が続いています。エネルギーは激しく失われていくのに、何一つ前に進んでいない感覚です。だから「休んだ気」は、まったくしません。
この状態が6年間、毎日続いています。
うつ病は「落ち込むだけ」ではない
多くの人は「うつ病=ぐったりして動けない」というイメージを持っています。しかしうつ病には、落ち着かない、張りつめる、内側から急かされるような形で現れることがあります。「休んでいるのに休めない」「頭の中が止まらない」という感覚は、うつに伴う焦燥感や不安の高まりとして理解できるものです。
日本うつ病学会の「うつ病診療ガイドライン2025」では、抗うつ薬の導入時や増量時には、不安や焦燥、落ち着かなさ、不眠などに注意が必要とされています [1]。同時に、うつ病の症状は単一ではなく、不安や焦燥を伴うケースも含まれることが記載されています。
体は動かないのに心は休まらないという状態は、決して珍しいことではありません。
CPTSDによる症状との重なり
私にはCPTSD(複雑性PTSD)もあります。日本心理学会の機関誌『心理学ワールド』に掲載された国立精神・神経医療研究センターによる解説では、ICD-11(国際疾病分類第11版)に定義されたCPTSDの症状として、通常のPTSD症状に加えて「自己組織化の障害(DSO)」があることが紹介されています [3]。
DSOのひとつである「感情調整の困難」は、「比較的軽微なストレスに対しても圧倒されるように感じる」「動揺した時に気持ちを落ち着かせるのが難しい」といった状態として説明されています。また、PTSDの中核症状のひとつとして「脅威の感覚の高まり」も挙げられています [3]。
私が感じている「常に見えないプレッシャーに急かされ、休息モードに入れない感じ」は、CPTSDでみられる「脅威の感覚の高まり」や「感情調整の困難」と重なる部分があると思っています。私の場合は、うつ病に伴う焦燥感に、こうしたCPTSDの症状が重なっている可能性があると理解しています。
薬の影響も考慮に入れる必要がある
見落としがちなもうひとつの要因が、薬の影響です。厚生労働省・PMDAの「重篤副作用疾患別対応マニュアル アカシジア」では、アカシジアを静座不能症とも呼び、「体や足がソワソワしたりイライラして、じっと座っていたり、横になっていたりできず、動きたくなる」「じっとしていられず、歩きたくなる」といった状態として説明しています [2]。強い不安焦燥感や内的不穏を伴うことも特徴として記載されています [2]。
また、抗うつ薬の導入時や増量時には、こうした落ち着かなさや焦燥に注意が必要とされています [1]。私が感じている焦りがそのままアカシジアだと断定することはできませんが、薬の影響で落ち着かなさが強まることはありうると分かりました。
薬を始めたあと、増量したあと、あるいは切り替えたあとに焦燥感が強まったと感じる場合は、その変化を主治医に伝えることが大切です。
早期退職者という特殊な状況
私の場合、早期退職者という立場が、この症状をさらに複雑にしています。
現役を離れた後も、「何かをしていなければ」という感覚はなかなか消えません。長年、仕事というスケジュールに沿って動いてきた身体と脳は、「何もしない時間」を素直に受け取ることができないのです。
また、社会から切り離されたような感覚や、「同世代はまだ働いているのに」という比較の意識も、焦りを増幅させる要因になります。休んでいることが「正しい選択」だと頭では分かっていても、心がそれを認めてくれない。そういった葛藤が、日常の中に静かに積み重なっています。
視点の転換:「休んでいた」のではなく「戦っている」
今回調べてみて、気づいたことがあります。実際には、この6年間、私の脳は一瞬も休んでいなかったということです。
物理的に仕事をしていなくても、神経系は全力で戦い続けていました。思考は24時間ループし続け、焦燥感は一瞬も途切れませんでした。
つまり、「6年間休んでいた」のではなく、「6年間、必死に耐え抜いていた」ということになります。「休んでいたのにダメな自分」という見方ではなく、「6年間も戦い続けてきた自分」という視点で、自分自身を見直すことができるのではないでしょうか。
同じ症状で悩んでいる方へ
もし「毎日休んだ気がしない」「見えない何かに追われている」と感じているなら、それはあなたの性格や努力不足のせいではありません。
うつに伴う焦燥感や不安、過覚醒、これらが重なることで「休んでいるのに休まらない」状態は起こりえます。その感覚に背景があることを知るだけで、少しでも自分を責める気持ちが和らぐことを願っています。
「もっと頑張らなければ」と自分を責める必要はありません。今まで十分すぎるほど頑張ってきたはずです。これからは「もっと頑張る」ではなく、「今ある頑張りを少しずつゆるめていく」方向に少しずつ向かえたら、と思っています。
参考文献
[1] 日本うつ病学会うつ病診療ガイドライン作成ワーキンググループ.「うつ病診療ガイドライン2025」. 日本うつ病学会, 2025. https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline2025.pdf
[2] 厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).「重篤副作用疾患別対応マニュアル アカシジア」. https://www.pmda.go.jp/files/000240113.pdf
[3] 丹羽まどか, 金吉晴.「複雑性PTSDの診断と特徴,および治療」. 心理学ワールド 97号. 公益社団法人日本心理学会, 2022. https://psych.or.jp/publication/world097/pw07/
具体的な治療方針については、必ず主治医にご相談ください。

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